アルバムに記載してあった文章 ノート <1945年(昭20)>
アルバムに記載してあった文章    

「莫逆の友 川口龍男大兄
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逝きて帰らざる友、川口龍男大兄よ。
生まれるはよし異れど、死するは共に春を同じせんと約せる刎頚の友よ。
などて吾をば荒野に放して 上天せるぞ。
昭和20年6月千葉県下にて君の訃報を聞き 下弦の月をも曇らしむ。
共に机を並べる事四ヶ年、奇しくもクラスをともに、また机も相せざることなかりき。親しきままに或は引き寄りて、共に談じ共に語り、或いは反発して争う。
然れどその長き日余に恆りしことありしか!?
君が心よく推せるは吾。吾心よく握めるは君!
畏友とは君ならずか、親しき中にも尊敬と畏慎をば忘れざりき。
この友なくして吾心共に死し、君あらで瞭月も暗し、夢にまみゆる君にこやかに笑みて語る。まことならざる夢路とて、さめて悲しき徒なれど吾は楽しさにたへずなり。
君、天国の蓮池のほとりに何を聞き何を思うや、苦界独り去りて、陽春に遊びぬる君に苦しきこの世はたへがたけれ、されど見るべし、星凍てつきぬる夜、独り流るる吾涙あるを…。然して聞くべし、四辺静寂の谷間に木魂(こだま)してわたる吾が黙する声あるを。
良友得難きこと、光陰ふたたび復さざるが如し、傷みて止まず黙して語らず俗界に沈淪する吾、天界に憩いを哀れむは愚なるか、知らず知らず 独り吾は寂しきが故に泣けるのみ…」