土本監督の「むつ」母港浜関根描く映画 原子力政策国の「海盗り」をえぐる 完成へ資金集めコンサート 「毎日新聞」 2月15日付 毎日新聞社
記録映画の土本典昭監督が、廃船計画が出始めた原子力船「むつ」の母港建設計画で揺れる青森県下北半島の関根浜を中心に撮り続けてきた「海盗りー下北半島・浜関根」がこのほどクランクアップ、四月未完成をめざし仕上げ作業を急いでいる。完成までの最大の問題は、二千五百万円の製作費の調達。映画の製作協力委員会は、資金の一助にと三月八、九の両日、東京一ツ橋の日本教育会館ホールで支援のコンサートを開くが、コンサートは青森県出身の淡谷のり子さんらも協力するという。
土本監督は「水俣の図・物語」で毎日芸術賞(81年度)を受賞したように「水俣の土本」といわれてきた。海に興味をもち続けてきた彼が、昨年四月から下北半島に取り組み始めたのは「海盗り」の瞬間が出現してしまったからだ。
関根浜が「むつ」の母港として”浮上”してきたのは八一年一月。そして昨春から関根浜母港化への動きは急となり、昨年五月には、関根浜漁協総会が開かれ海を「売る」ことの協議を始めた。同監督らは資金計画もないままこの総会からカメラを回し始めた。
五月には結論の出なかった総会も、八月には過半数をわずかに上回って「売る」ことを決めた。カメラはこの総会や、この一年の関根浜と下北半島の動きを追った。最後に撮り終わった冬の漁は、零下三十度の海上。延べ百日のロケで十八時間半のフィルムを回した。
撮影の最後の段階で自民党科学技術部会の「むつ」廃船決定が伝えられ、その後母港建設関係の予算は七十七億余円が認められた。「むつ」の存廃は八月末までに結論が出されることになったが、自民党筋では「むつ」は廃船にし、港は”多目的港”に、という説が有力であるという。フィルムは、「むつ」のためにと母港推進派であった漁協組合長が「利用され、だまされた」と語るところまで撮られた。
「楽天的な男が裏切られていくのでず。政府は海さえ手に入れればよく、あとは自由に転用できるのです。これまでにはっきりと見えてきたのは下北半島全体に原子力政策の照準が向けられているということです。僕はプルトニウムによる発電まで構想されていると考えています。再処理工場と核廃棄物の積み出し港はセットで必要なのです。
八月には僕たちの不幸な予想が的中しそうです。しかし結論を出す前にこの映画を見てもらいたい」と土本監督は言う。
映画は国による「海盗り」のテクニックを追い、さらに「盗られた」先輩である同県の六ヶ所村の悲惨さと荒廃をも描く。
映画の製作協力委員会は、昨年六月に発足、資金集めに入ったが、まだ二百万余円しか映画に投入できない。三月のコンサート「夜は地獄か極楽か」には、淡谷さんのほかに歌手・俳優の泉谷しげる、さらにこの映画の企画者で開根浜で生きた母の一代記を一人芝居として全国各地で語り続けている俳優の松橋勇蔵(役者名=愚安亭遊佐)も語りで参加して盛り上げる。聞い合わせは青林舎へ。