水俣から下北へ『海盗り』を語る(講演録) 『くりっぷ』 創刊号 4月25日号 杉並記録映画をみる会 <1989年(平1)>
 水俣から下北へ『海盗り』を語る(講演録) 『くりっぷ』 創刊号 4月25日号 杉並記録映画をみる会

 杉並区に住んでいながら、杉並で映画会をやるのは初めてです。こういう機会をもっていただき大変感謝しております。

 杉並シネクラブを継承して

 この浜田山会館は、記録映画の大先輩であります野田真吉さんが今から十年以上前に杉並シネクラブを創って、地元の佐々木基一先生などといっしょに数年にわたってシネクラブ運動をなさってきたところです。
 非常にある感慨がございます。このフイルムを撮りました後、現地では様々なことが起きていますが、去年はほとんど完成した関根港に行ってきました。海を売る側にまわった西口さんという方は亡くなられていました。「最後まで頑張る」と言っていた松橋幸四郎さんは本当に頑張っています。
 あの役者の松橋勇蔵さん他十数名の方が、あの港の見えるところの林の中に土地を持って小屋を作り、地主会を創ってたたかっています。
 さて、「海盗り」を作った動機というのは、松橋勇蔵さんがどうしても青森県の人たちに見せたい、ということでした。そういう話に私は弱いものですから、映画に出てくる番屋の一部屋をかりてこの映画をつくったんです。
 実は私が「水俣」(一九七〇年)という映画をつくりまして、色々のところで上映されましたが、その中に六ヶ所村があったんですね。当時、石油・製鉄・原子力を含む日本最大の石油コンビナートがつくられようとして村が二つに割れている、と聞きました。人間が自然を奪われたらどうなるか、を知ってもらうためには「水俣」をぜひ見てもらいたい、ということで六ヶ所に十日ほどかけて上映して歩いたことがあります。

 水俣から学んだこと

 私が「水俣」をつくりまして、ひとつだけ確実にわかりはじめたことがあったんです。それは水俣で教えられたんですが、水銀という物質は太古から有毒であることは広く知られている。自然の毒ならば体内にあやまって取り込んでも、必ず吐いたり痛んだりして体が受けつけない。
 ところが、有機水銀というのは全く気づかないまま魚といっしょに体内に入ってしまう。恐ろしいことにその分子構造のゆえに脳や胎盤に入るんです。無職水銀は極めて微量にしか入らないそうです。
 つまり人間は地球上に自然に存在している毒物については何らかの形で防御できるが、人工の物質については生理の適応力がない。ということがだんだんわかってきました。
 そういう中で、あの原子力船「むつ」の漂流事件がおきたんです。「むつ」の原子炉の放射能もれを起こしたとき、ご飯をたいてご飯つぶとホウ素の粉を練り合わせて防いだといわれています。ホウ素には放射能を防ぐ力があり決して非科学的ではありませんが、こういう科学の現実を見て、私はゾツとしましてそれ以来、原発のことを真剣に考えるようになりました。
 下北は多くの土地が買収されて一九六八年ごろの通産省の日本列島改造計画には原子力諸施設にとって好敵地としてあがっていたそうです。
 津軽海峡に「むつ」をもってくる。疲れきって村のさびれを恐れている六ヶ所村に今度は核燃サイクル基地をもってくる。しかも集団的エネルギーを発揮するだけのエネルギーをもてないような状態にしてから・・・私は反対運動は起きないのではないか、と思っていました。

 何人かが頑張ればたたかいの火は消えない

 ところが人間というのは数ではなくて、人間の質と思うのですが、六ヶ所村の老人たちですね。寺下元村長をはじめ映画にも出てきた「湖は俺のものだ」と言っているあの漁民とか、通称「七人の侍」という人たちです。松橋さんの力も大きいと思います。そして、何よりもソ連のチェルノブイリ原発事故が危機感に火をつけました。
 六ヶ所村の運動の主体は、敷地内の人たちではなくて隣接した漁港・泊というところが中心になっているわけです。それまで泊の人たちは放射能といっても風向きによって何とかなると思っていたのですが、とんでもないということになってきた。絶対に動かない、と思われていた青森県農協も動きだしている。何人かの人が頑張ればたたかいの火は消えないわけなんです。

 もう一度原子力についての映画をつくりたい

 この映画で言いたりませんでしたけども、私は原発問題というのは戦争のない時代における資本によってしかけられた戦争である、と思っています。鉄砲は使わないが確実に人を殺していく戦争です。
 私にとっては「水俣」から「下北」とつながってきた感じで、もう一度原子力についての映画をつくろうかと思っているところです。まあ、五年たったら出来るかもしれませんし、出来ないかもしれませんが、すべてみなさんに教えていただいてつながってやっていきたいと思います。今後ともよろしくお願いします。
 (拍手)