尊敬する作家 羽仁進, 『キネマ旬報』 8月上旬特別号№1410 キネマ旬報社
私は中学・大学時代、砧の東宝撮影所の近くにいましたので、戦後の東宝の作品、作家、俳優を知る機会がありました。活動屋と左翼知識人の“混血”した方々に親しみ、格調高い映画を見せられてきました。縁あって二十八歳にして岩波映画製作所に雇員として入り、羽仁進さんとその『教室の子どもたち』『絵をかく子どもたち』を見て、その破格さと自由さに私の映画の“常識”を破られました。
サヨクの硬直した観念ではなく、ラディカルな発想と映像で考えるという態度、かつ民主的な資質に学んだものです。
有名な羽仁五郎・説子の嫡流として、本物の大正リベラリズムを受け継ぎ、さらに天才的な写真作家名取洋之助を師として、欧米の優れた写真家の仕事、そしてヌーベルバーグの作風を自家薬籠中にしておられ、映画の思想と表現をゼロから組み立てた得た作家でした。監督についたのは氏だけ、すべて共鳴と発見の日々でした。