今、見えている東京展のふたつの光景 ノート <1994年(平6)>
 今、見えている東京展のふたつの光景
 
 今回の企画のいくつかの柱のうちに、東京の写真家・宮本成美氏による「写真水俣病事件史展」コーナーと、水俣の記録者、鬼塚巌氏の「仕事場のすべて」コーナー(いずれも仮称)がある。宮本氏の場合、二十数年撮り続けながら、初めて自分で「やる」と決めた写真展だ。氏は「そこに居るのがあたりまえ」のように患者たちのなかにいて、シャッターを押してきたのに一冊の写真集も出されなかった。鬼塚氏はいわばひとの「落球」を全部拾ってきた。しかもふたりに共通しているのは、絶えず「撮ってよかろうか?」といった突詰めた眼をされていたことだ。
 私は「映画のひと」として、群れから少し離れて居られただけに、両氏のコーナーを想うと、心底に新しい渦の湧く思いがしている。