ガイドラインに反対し、北朝鮮にいまこそコメを送れ
今、アメリカ、英国のイラク攻撃の一時停止の情勢のなかでこの小論を書いている。この事態にすぐさま想起したのはこれが横須賀、佐世保、とりわけ沖縄の基地からの出撃であり、また九一年の湾岸戦争に九十億ドルの戦費負担と自衛隊の協力を暗々裡に促された記憶である。さらに北朝鮮の核開発疑惑に対するアメリカの軍事的制裁もありうるとの「見せしめ効果」がまざまざと示されている。「サダム・フセインを暗殺せよ」と言ってるに等しいアメリカの攻撃目的の説明は、そのまま「金正日体制打倒」に聞こえる。クリントンはこの行動が「わが国民のため」とアメリカの防衛を冒頭に置き、ついで「中東と世界のため」と続けた。そしてイラクと並べ、北朝鮮を名指して世界の危機点の二極と指摘した。日本を戦争に向き合わせ「ガイドラインはもはやこれで決まり」といった趣である。だがそうは問屋が下ろさないだろう。冷戦後の短い歴史のなかで、核を背にし、ハイテク兵器をもって世界に覇権を誇示するアメリカの実像も裸になった。ロシア、中国、アラブ世界をはじめ国連の多数国家は反米ないし批判的である。やがて「資本主義世界のとどのつまりがこの姿か」という覚醒効果もあらためて生まれよう。
その流れのなかで世界の虚をついたのは、米英の国連無視の暴挙に日本が即刻、条件反射的に支持したことではなかったか。そこには平和的解決を国連で、という顧慮は皆無であり、アメリカを即国連と見なす「暗愚かつ盲目の国」として、これから先も世界に記憶されるであろう。またアメリカの覇権戦略に組み込まれた基地列島日本に対し、アジア、とりわけ北朝鮮・朝鮮民主主義人民共和国はさらに危機感を強めるのは必至である。
この十年、日本は周辺の国々から歴史を振り返るよう絶えず「外圧」されてきた。とくに韓国、北朝鮮、そして中国が日本の歴史認識を問うのは、共生の未来をともにし、戦争のない「東アジア」を望むにあたり、イデオロギーや宗教ではなく、もっぱら歴史から学ぶという、人類の到達した叡智に立つからだろう。日本でも歴史の論議は右も左もさかんである。それは必然的な思想の運動である。歴史書には朝鮮が一度として日本を侵略した史実がなく、その逆の歴史がいまも暗流しているのを知るだけでも姿勢を正す事になろう。
今、東アジアの危機は北朝鮮の飢えである。飽食の国日本はまずそれを救う事こそが “危機管理”ではないか。有り余るコメを送ることは安全保障以前の“ガイド”であろう。
土本典昭(つちもとのりあき)一九二八年生れ。記録映画作家。『留学生チュア・スイ・リン』『シベリア人の世界』『水俣ー患者さんとその世界』など水俣病映画の連作。『よみがえれカレーズ-アフガニスタン』。ほか著作『されど海-存亡のオホーツク』など。