『水俣』のイメージを世界にばらまく 「東プロ月報」No.7 9月 東プロダクション
去る六月三日、ストックホルムでひらかれた世界環境広場への参加にあたり各位よりの物心にわたる御援カ、有難うございました。「広場」のあとフイルムを携え、公開行脚の旅をつづけ、九月中旬帰国しました。
六月下旬、ヨーロッパを南下し、七月下旬モスクワに至る間に、各地でのべ十六回、約二千人の関係者、映画人、一般に試写してきました。時季柄、バカンスで公開活動の鈍い時期でしたが、観た人々の連鎖反応によって深く丁寧に受けとめられたと思います。私の帰国後、フイルムはパリを中心に、一斉に開かれる各国際映画祭に招待され、公開をつづけます。ロッテルダム映画祭(七月上旬)につづきピサロ、マンハイム、ロンドン、ニューヨークそして来年カナダ、モントリオールの環境をテーマとする映画祭でほぼ欧米一巡することになりそうです。スウェーデン、西独ではTV上映がほゞ決まり、フランス、イギリス、イタリア、アメリカでは非劇場上映のルートが開拓されました。フランスでは、クリス・マルケル監督(戦闘的映画集団『スローン』主宰者)アメリカではコロンビア大学の映画科教授エリック・バウナウ氏等の協力によるものです。尚、アメリカを基地とする「第三世界映画グループ」の手で中南米にも、公開の手がかりが得られました。緒についたばかりですが「水俣」を世界中にばらまく活動に入ることが出来たことを報告いたします。
世界各国とも自主上映の方法は胎動期にあり、確実にあすの映画のあり方となっています。その時期に『水俣』は映画としての新たな知己を得て旅をつづけ環境広場や上映活動についてのレポートは「アサヒグラフ」の六月三十日号、「展望」の十月、及び機関紙「告発」等に一文を寄せましたので併せお読み頂ければ幸いです。
「人間の身体をテーマとして階級闘争を描いた世界最初の映画」(伊・アプラ氏)の評を一極とすれば「水俣病を通して『日本-日本人とその世界』を知らせた」(英・バーチ氏)という観方を一極とする受け方をつなぐものは、水俣病闘争-その人間の問いの新たな地平のもつ地獄のような眺望に外なりません。私たちの明日の作業もまた、思いを新たにして、水俣・天草・不知火にひろがる埋められた病像とその人間世界への迷路にむかうものでありたいと思います。有難うございました。(九・二四)